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逃げ道に学ぶ、自然と感謝

「効率こそが正義だ!」と信じていた私が、父の放った一言に「返り討ちにあった」お話です。

福井県の三方五湖で400年続く「うなぎ筒漁」。この漁法、現代のビジネスマンが見たら、思わず「ちょっと、設計ミスなんじゃないですか?」と言ってしまいそうな、なんともゆるい仕掛けなんです。

うなぎ筒漁図「三方五湖世界農業遺産推進協議会HP」より

かつて関東の大学に通い、都会の空気にどっぷり浸かっていた私は、生意気に父に詰め寄りました。

「親父、この筒、入口に『返し(一度入ったら出られない罠)』がついてないんやね。これじゃ、うなぎが自由に出入りし放題じゃないの。もっと今どきな、絶対に逃さない仕組みに変えたらええんじゃない!」

鼻息の荒い都会帰りの若造に対し、父は静かに、そして深い答えを返してくれました。 「……あのな、これでいいんや。いや、これがいいんよ」

父が教えてくれたのは、驚くほど優しく、そして合理的な「命のルール」でした。
 この漁は、湖が穏やかな日にしか出られません。もし強風が続いて何日も網を上げに行けなかったら? そして、そこに「返し」があったら…、閉じ込められたうなぎは筒の中で命を落としてしまいます。

「捕まえられない間、うなぎを殺してはいけない。命を無駄にするのが一番もったいないやろ?」

つまり、この筒は「監獄」ではなく、いわば「出入り自由な素泊まり宿」だったのです。 漁師が迎えに行けない日は、うなぎは自由にチェックアウトして湖に帰っていく。この「逃げ道」があるからこそ、400年もの間、うなぎも漁師も共倒れせずにやってこれたわけです。

「食材への感謝」「自然への敬意」「資源を守る知恵」。 そんな格好いい言葉を並べる前に、先人たちは当たり前のように「相手(うなぎ)の都合」を考えた仕組みを作っていました。

今の私たちは、何でもかんでも「返し」をつけて、一度掴んだら離さないようにと必死になりすぎているのかもしれません。 「あえて完璧にしない。逃げ道をつくっておく」 そんな引き算の知恵が、巡り巡って自分たちの暮らしを長く守ってくれる。

400年前から続く「ゆるい筒」は、ギスギスしがちな現代を生きる私に「もう少し肩の力を抜いて、自然の流れに任せてみたら?」と、ニョロリと教えてくれているような気がしました。

(代表理事 田辺一彦)

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